仕事終わりの帰り道。

私は何かがあったわけでもなく、ただなんとなく遠回りをして帰りたくなった。

仕事で嫌なことがあったとか、家に帰りたくないだとか、そんなことはまったくなく、

むしろお腹が空いていて、早く帰って夕飯を食べる方がいいのだが、

今日の私は食欲よりもほんの少しの冒険心が勝った。

私は帰宅の車でひしめく夕方ごろの公道を外れて、軽トラックがよく走ってそうな田舎道を車で走った。

田舎道の脇には少し背の高い雑草がたくさん生えており、車でそこを通るとピシピシと雑草が車の脇に当たる音が聞こえてくる。

私は注意を払いながら、遅めの速度で車を走らせる。

1分ぐらい田舎道を走ると、アスファルトで舗装された車道が見えてきた。

その道路に沿って走ると、普段帰りに使っている道よりも10分ほど帰るのが遅くなるが、車も信号機も少ない道だ。

私はその道をゆったりとした気分で車を走らせた。

今日は台風が近いということもあり、天気は雨。

綺麗な夕焼けや、夕日に照らされた自然が見れるはずもなく、道路も草木もあらゆるものが濡れていた。

しばらく走り、ふと、視線を上にやると、普段ははっきり見えるはずであろう山が『霧』に覆われていた。

私はなぜだかこの山霧に心を奪われ、道路の脇が広くなっている場所に車を停車させ、しばらくその山霧を呆然と見た。

ゆっくりと、ゆらゆらと、まるで生きているかのように霧が動いているように見える・・・。

だが、注意深く見るとあまり動いてないようにも見える・・・。

なんだかとても不思議な気持ちだ。

まるで、あの山霧の中から何かがこっちを見ているような・・・

あるとき突然、フッと何かが現れそうな・・・

そんな気がする。

よくホラー系の映画やゲームなどで、霧が使われるのがよくわかる。

しばらくこの不思議な気持ちに浸っていたら、私のお腹が「もうそろそろ・・・」っと合図を鳴らした。

私は車のエンジンをかけて、今度は少しだけ速く車を走らせ、自宅を目指した・・・・・・。